
「有機農業で就農したいけど、どうすればいいんだろう?」という方に参考となるような体験談をご紹介していきます。
納得できる生き方をしたいから
5万円で家を建てて、農場をスタート!
僕自身の畑の広さは50a(5反)です。1反からどれくらい売り上げられるかの目安として、100万円売り上げたら上々だと愛農高校の奥田先生もよく言っています。上手に経営したらだいたい50アールで500万円くらい。ぼくはトラクターを買ってビニールハウスを建てて、というように初期の段階でかなり投資しているので、500万円のうち、いま収入になるのは250万円程度です。
この金額は順調に行ったら年間これくらい入るという話ですが、大学を卒業して就職して普通にサラリーマンをしていたら、初任給はだいたい20万円前後。サラリーマンはボーナスがもらえますから、大学卒業してぽんと就職した人でおそらく年間で約300万円もらえるんですよ。
ぼくの場合は、嫁さんと1歳半の子どもを食わして、それで生活をしていかないといけないわけです。そうすると、よほど上手にしっかり経営しないとなかなか食えない。しかも、この4月からは大学時代の友だちが1人加わったので、食って行かなきゃならないのが2人になりました。
ぼくが今作っているのはトマトで、6月から8月のメイン作物になります。今年はこれで150万円くらい稼いでやろうと思っています。あとは葉物で、ほうれんそうや小松菜。9月から翌年の6月くらいまで1日100~300パックくらい出荷して、年間で200万~300万円くらいの収入になります。あとは大根・かぼちゃ・モロヘイヤ、来年はブロッコリーやねぎなどの品目を作る予定です。
お金に追われても仕方ないけれど、こういうリアリティをしっかり押さえておかないと生きていけません。経営と商売はまたちょっと違うのですが、「これくらい売らなきゃいけない」という目標があれば、たとえば苗作りをするときに、種をまいたらどれだけの率で苗ができるかを全部逆算して仕事をしなくてはいけない。何となく経験で「これくらいかな」というより、文献やインターネットで調べればいい。トマトだったら1株あたり何リットルの水が必要かなどについて、農業試験場などが研究してデータを出しています。
有機でやっていますが、有機が絶対正しいからというより、環境や経営のことを考えての結論です。全国規模の宅配業者に出荷していて、全国にたくさんのお客さんがいます。ちゃんといいものさえ作っていれば出荷できる。経営的に余裕が出てきたら、自分で販売した方がいいなとは思っていますが。
上手にやろうと思ったら必要なのは技術です。技術とは何かというと、鎌の使い方とかそういうことではなくて、ぼくが思うにたぶん知識です。有機も科学的にできる。科学的というのは、何も最先端の機械を使うことではなく、きちんとデータをとったりして、誰が見ても納得するようなきちんとした土台の上で、データに基づいたことをきっちりやって、結果を見て、またデータをとってきちんとやる。毎回そんなふうにやれているかどうか、というのが科学です。
農業は自分の体も使わないといけないし、いろいろ総合的にできないといけない。農業をやろうとしている人には経験がとても大事で、ぼくも農家で3年間研修してきました。ぼくは科学の絶対信奉者ではありませんが、いかに科学的にやるかということで全然収益が変わってきます。
もし俺がお金儲けをしようと思っていたら、会社は辞めていません。大学院まで出て、メーカーのサラリーマンとして燃料電池を開発する仕事をして、少なくとも現在の農業収入の倍くらいはもらっていましたから。いまは日曜から土曜まで、休みなく働いています。少なくともサラリーマンのときの倍は働いているし、経営のこともちゃんと考えないといけないからいつも頭がいっぱいです。でも、給料は半分。じゃあ、何でそんなことをするんだろう。たぶんそこが一番大事な話です。
やっぱり自分で一番納得できる生き方をするしかない。本当に納得がいくまで考えれば、道は開けるんじゃないかな。ぼくの場合は農業が答えだとは全然思っていません。エネルギーがなくなって、厳しい世の中になっていっても、ぼく自身が一番納得したいし、笑って生きていたいんです。そのためには一緒に農業をできる仲間がほしい。仲間を作って、それが社会的に事業として生き残っていくようにしっかり経営をしていきたい。これくらい先を見ていないと農業なんてしんどくてやってられないですよ。
僕は農薬や化学肥料を使わないことに関して、さほどこだわっていません。ただ、僕自身が研修してきたのが有機農業で、農薬についてあまり知らないこと、出荷先が有機の宅配組織で高い値段で買ってもらっていること、それからグループの師匠が農薬で健康被害を受けたことがあって有機にこだわっている人で、ぼくはその枠組みの中でやろうとしてるので合わせているというところがあります。
有機農業のメリットは、農薬を使わないことではないと思っています。農薬を使わないと確かに体にいいものにはなるけれども、僕は循環型の社会とかエネルギーのことを考えたら、有機物を使うことの方に意味があると思っています。面白いのは、最近、科学的に有機農業をしようとしている人の本を読んでいるのですが、意外なことに有機農業の方がうまくやれば収益はあがります。化成肥料をやるのと有機肥料をやるのとでは、植物にとって全然違うことなのです。無機質の尿素とか硫安などの化成肥料を与えると、植物は自分で光合成をして自分の体にする。それをするためにはエネルギーが必要です。
ところが、アミノ酸や窒素を含んだ有機物を与えると、植物は光合成でできたエネルギーを、アミノ酸を作るために使う必要がない。天気が悪くて植物が十分に光合成できないときでも、有機栽培なら収穫できるのです。そういうメリットを考えると、経営技術として有機農業というのは実は非常に可能性があるということです。有機農業もちゃんと研究されていますから、そういうものに当たっていけば有機農業は結構面白いですよ。
僕自身、研修を受けましたし、研修は受けた方がいいと思います。ただ、僕は最初研修を受けさせてもらっていたところとうまくいかなくて、けんか別れになって結局飛び出てしまった。やはり相性のようなものもありますし、なるべく自分がこの人だったら納得するという人をちゃんと探すこと。自分がその後伸びていけるかどうかは、たぶんそこで何を得られるかで変わってくるので、よく話して、しっかり自分の心に聞いて決めたほうがいいんじゃないかな、と思います。
土地を借りるには、めちゃくちゃ時間がかかりました。田舎ってなかなか土地を貸してくれない場合が多いですが、それでも僕の場合は運のいいことに、研修させてもらった人が新規就農された方で地元の方でした。昔からここに住んでいる農家の人たちと関わっていく中で関係ができて、話がつながって借りることができました。ただ、ふつうだったらやらないような条件です。僕のところは養鶏業者が20年間使ってきた畑で、持ってくる鶏糞を消化しなきゃいけないという条件のもとでやっています。本当は肥料設計をきっちりしたいのですが、鶏糞を長い期間入れ続けたところは、リン過剰で病気が出やすい。それを工夫してやっているので大変ですね。
僕はサラリーマンをやっていたので蓄えがあったように聞こえたかもしれませんが、実は本当にゼロからのスタートでした。
かかったお金は、トラクターが24馬力の中古で150万円、5畝(せ 10畝=1反)のハウスが3棟で100万円。葉物を遠くに出荷するときは収穫したらすぐに冷やす必要があるので冷蔵庫が50万円。後は、管理機などで400万円借金しました。それ以外にもかかっていますが、僕の場合は昼間に農業をやって、夜に塾の先生という生活をしばらくの間していたので、それで何とか生活費も回していました。
借金は県の資金を無利子で借りました。研修のときには県から180万円の研修支援金がありましたが、12年間三重県で農業をやり続けるという条件の資金でした。
僕の話はつらい部分が強調されていたかもしれませんが、なぜいま農業をやっているかというと、農業ってめちゃくちゃ面白いと思っているからです。僕は技術者やもの作りをやってきましたが、実は農業は一番難しい。挑戦的でやりがいがあるんですよね。
土の成分を考え、トラクターを整備して、ビニールハウスを構造的に建てるには、物理の知識も化学の知識もいるし、生物を知らなきゃ植物の生理がわからない。地質や天候も読めなきゃいけない。ものすごい科学の知識が必要です。
経営もできなきゃいけない。こんなにやりがいのある仕事はありません。しかも自分が経営者だから全部責任を負わなきゃいけないけれど、収入は全部自分に入ってくる。正直言って、これ以上おもしろい仕事はないと思っています。キツイですけどね。大変で、ヒーヒー言ってやっていますけれど、めちゃくちゃ面白いし納得してやっています。
僕自身が次の展開として考えているのは、自分で農業をしながら研究機関みたいなものにしてしまおうかな、ということ。有機農業を科学的にやって、アドバイスできるような技術を集積していけたらと考えています。今度一緒にやり始めた人は化学分析の専門家なので、そういうことができるかな、と企んでいます。
もう一つ、こちらの方が大切だと思っているのですが、若い人たちに、農業を実際にやりながら、たとえばトラクターのここはどうなってるの?とか、物理だったら力学の話、マグネシウムと光合成の関係のようなところから伝える、研究や教育ができる場を作りたいということ。実現できたらおもしろいと思っています。
(村山邦彦さん・三重県)
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